背景
PCたちがモックスフォンド大学からの依頼で『イモムシの隠れ里』を訪れている最中、仲間の一人『ターリア』が行方知れずとなります。
里の住人から話を聞けば、御伽衆を積極的に狩る格上の救世主『童話狩り』がつい昨夜森へ入ったこと、その話を聞いたターリアがPCたちを巻き込まぬよう単身で里を飛び出したことが分かります。
一方、童話狩りに力及ばず追い詰められたターリアは、童話狩りの魔手が仲間たちにも及ぶことを危惧し最後の賭けに出ます。
それは自ら疵の力を暴走させる事。巨大な茨の亡者と化したターリアは、狙いどおり童話狩りを圧倒することに成功します。しかし……
生前の想いとは逆に人を傷つけ、森を侵食する存在と化したターリアを眠らせてあげることが、PCたちの目的となります。
シナリオをはじめるまえに
お茶会ではMOD「
惑乱迷宮」を使用します。
図の通りにトランプのカードを並べ、裏向きにしておいてください。
各カードがどのようなクエストを持つかは、
GMパートを参照してください。
1列目 |
♦Q |
高価そうな入れ物 |
♦8 |
オーバーハンドシャッフル |
♠8 |
岩の牢 |
2列目 |
♣2 |
平穏 |
♣J |
泉 |
♦2 |
騎士の一撃 |
♦5 |
こしょうボム |
3列目 |
♥9 |
自殺の名所 |
♥8 |
事故現場 |
♠Q |
金床 |
♠2 |
雑魚-モルモット級- |
4列目 |
♥A |
尊厳破壊 |
♥10 |
戦場跡 |
♠6 |
雑魚-パピー級- |
♣A |
パワースポット |
進行
プロローグ
イモムシの隠れ里
PCたちは現在、『森』の地下に作られた「イモムシの隠れ里」にいます。モックスフォンド大学からの依頼で、手紙の配達にきたのです。
この依頼は仲間の一人「ターリア」が、PCたちと出会う以前に何度か請け負ったことがあります。ターリアの道案内に従い、多少のアクシデントに見舞われつつも一向は予定通り夕方に隠れ里へ到着することができました。
導入のシーンは手紙を届け終わった後、隠れ里の宿での光景を描写します。夕食を摂りながら、『森』での出来事や今後の予定について適度に話しましょう。『森』での出来事については、次の表で決めても構いません。
キリの良いタイミングで、ターリアがイモムシの末裔に呼ばれます。ターリアはPCたちに先に休んでおくよう伝え、席を立ちます。
1D6 |
『森』での出来事表 |
1 |
PCの一人が川に流された。 |
2 |
PCの一人が毒キノコを食べた。 |
3 |
PCの一人が落とし穴にはまった。 |
4 |
亡者に追い回された。 |
5 |
賊の襲撃に遭った。 |
6 |
ターリアが道を間違えた。 |
翌日
翌朝、部屋を見渡してもターリアはいません。部屋を出ると、イモムシの末裔が憔悴しきった顔でPCたちに声をかけます。
昨夜、御伽衆を積極的に狩ると噂の救世主「童話狩り」が、ターリアをつけ狙って『森』へと侵入しました。その話を聞いたターリアはPCたちを巻き込まぬよう、単身で里を飛び出したそうです。
話し終えると同時に、地上から轟音と、人とも動物とも区別できないものの悲鳴が続々聞こえてきます。
侵される森
森の外の光景は、昨日とはまるで違いました。視界に入る賊や動物がみな血を流して倒れているのです。
彼らを貫くのは無数のいばら。木々の間を縫ってどこまでも伸びる巨大な錘槍。森に生きるあらゆる命を蹂躙した犯人は、確かにターリアの面影を残していました。それはつまり、ターリアが童話狩りとの裁判で亡者化したことを意味します。
ここで、「いばら姫ターリア」のPKシートを公開してください。
お茶会
MOD「惑乱迷宮」の使用
ターリアの本体は現在地より北東、『森』の入り口付近にあります。逃げるにせよ、戦うにせよ、ターリアとの接触は避けられません。また、ターリアの案内がない『森』は、PCたちにとって危険な迷宮です。入り口に向かうだけでも労力を要することでしょう。
以後、お茶会の進行はMOD「
惑乱迷宮」のルールに従ってください。シーン表が必要な場合は、基本ルールブックの「森シーン表」を使用しましょう。
PKの行動指針
MOD「惑乱迷宮」の効果によって、PKの割り込み行動はありません。
横槍を入れることはできますので、配下の「童話狩りの羽ペン」に横槍をさせてください。羽ペンによる横槍によってクエストが失敗した場合、成功するはずだった展開が書き換えられる形で失敗時の効果が発生します。
童話狩りとの接触
1ラウンド目が終了した時、このシーンを発生させてください。
次の場所へ移動する最中、瀕死の男を見かけます。右腕と左足、それに六ペンスコインを失っていますが、黒いマントと銀の仮面は童話狩りの特徴と一致します。童話狩りはPCたちを一瞥すると、ターリアのいる方角へ向かって、次のようなことを吐き捨てます。
そうか。すべてを擲つ覚悟で私の前に現れたのは、同じ御伽の者を守るためであったか。その結果、お前たちどころか森のすべてを滅ぼす災害と化すとは。愚かな姫君よ。
もはや誰も、あの歪な物語を終わらせることなどできまい。大人しく、お前たちもろとも私の手で『校閲』されていれば良かったものを……
童話狩りはその後、PCたちが手をくだすまでもなく息を引き取ります。
裁判
開廷
森の入り口に陣取るターリアは、PCたちを認識すると無差別に襲い掛かってきます。
この日、誰かの物語が血だまりの中に横たわる。それはきみたち三人かもしれないし、彼女かもしれない。
亡者には心がない、ゆえに願いを持つこともない。けれど、生前の彼女がこの場に居合わせたならば、一抹の望みをきみたちに託しただろう。
さあ、物語をはじめよう。/お願い、私の物語を終わらせて。
PKの行動指針
『仕込』はPCが不調を与える技能を持っていれば『水パイプ』を二つ、そうでなければ『免罪符』と『おくすり』を入手してください。
基本は『精確』に『女王命令』を組み合わせて攻撃します。攻撃を受けたら『茶々入れ』、『ドリンクミー』で反撃し、対象が《猛毒》になったらすかさず『コーカスレース』を使用しましょう。『赤い毛糸』でも『コーカスレース』を発動できることを忘れずに。
『胡椒の雲』は、毎ラウンド自身含めた全員のHPを減少します。HPが低くなってきたら、『コーカスレース』の使用は控えたほうがよいでしょう。
エピローグ
勝利した場合
トドメを刺すと、薔薇の蕾が開き、中から干からびたターリアの亡骸が現れます。ターリアの手には幾ばくかの六ペンスコインが握られています。コインを手に取ると、森を侵食していた茨は枯れ果て、力を失います。
全滅した場合
PCたちはターリアに強く抱きしめられ、その茨によって命を落とします。新たな救世主が現れるまで、森はターリアに侵食されたままとなるでしょう。
PK『いばら姫ターリア』
キャラクターシート:いばら姫ターリア
ターリアは、あなたたちに同行していた救世主でした。
棘で傷つけることを恐れ、常に一歩距離を取るよう心がけていた彼女は今、森に住まう人や動物、亡者すらも締め付け、その血を啜り続けています。彼女が存在する限り「誰も血を流さない優しい世界」など、作れるはずもありません。
演出例
いばらの軍勢が森中に蠢き、木々や動物を捕らえて抱き絞める。
錘の巨大槍が躍り狂い、目前の獲物を容赦なく刺し貫いていく。
巡る絶望、廻る毒。生き血を啜り、薔薇の核が妖しく光る。
つぼみから噴出する花粉が、森のすべてを死の淵へと誘う。それはターリア自身とて例外ではない。
データのカスタマイズ
以下はカスタマイズの一例です。
『赤い毛糸』の代わりに『毒吐き』や『眠り鼠』を入れる。
NPC
ターリア
主な人となりは概要欄をご確認ください。
心の疵「薔薇人間/太陽と月とターリア」
彼女はグリム童話の「いばら姫」でありながら、その前身であるペンタメローネ「太陽と月とターリア」の記憶を持っています。
薔薇人間の異常性は、己が眠りについている間に愛の果実を摘み取られたトラウマ、すなわち他者に触れられる恐怖からの防衛本能が具現化されたものです。
自分を受け入れてくれるPCたちに心から感謝しながらも、己の体質は仲間を信頼しきれていない事実を示しており、大きな引け目を感じています。そのことが、彼女をたった一人での裁判へと駆り立てたのです。
台詞例
「なんとか予定通り里に辿りつけましたね。みなさん、お怪我はありませんか?」
「ダメですよ、触れちゃダメです! 私の肌、ほんとうに危ないんですっ」
「なんの御用かしら……? あ、みなさんはお疲れでしょうから、先に休んでいてくださいね」
(私が目をつけられていたせいで、あの優しい人たちまでもが巻添えになってしまう……そんなの、嫌……!)
童話狩り
御伽衆をつけ狙う、格上の救世主です。
口伝や虚偽によって歪んだ御伽噺を『校閲』――歪みなき状態へ正すこと――を生業としており、堕落の国に招待されてからもそれが正しい行いであると信じ続けています。
堕落の国の御伽衆は例外なく心の疵を抱えており、その疵を『校閲』されることは死を意味します。
セッション用素材
あとがき
仲間の喪失、それと惑乱迷宮の入門シナリオとして以前作ったシナリオをリニューアルしました。
実はそこまで御伽の世界の救世主で遊ぶ必要はないんだけど、これをきっかけに自分が動かすPCの御伽噺を読み直したり、掘り下げたりしてみていただけるとうれしいですね!