あらすじ
あなたたちは二人組の救世主だ。敵対する救世主との裁判に敗北し、傷ついて逃れた果てに、海の見える教会にたどり着く。そこには救世主・カルセラが住んでいた。世捨て人のように暮らしていた彼女は、あなたたちを歓迎する。
この海岸には言い伝えがあるという。霞の向こうから船が現れ、戦いに疲れた救世主を堕落の国から元の世界へと送り届けてくれるのだ。
そのおとぎ話を信じるにせよ信じないにせよ、あなたたちは彼女のもとで傷を癒やすことになるが、次第に奇怪な現象が起こり始める……
果たしてカルセラは敵か味方か?
ハンドアウト
PCたちはそこそこの間旅をともにしている。背を預けあえる仲間だ。以下のどちらかを選ぶこと。
PC1
あなたは元の世界に戻りたいと思っている救世主だ。堕落の国は、もううんざりだ。
PC2
あなたは堕落の国に順応している(あるいは、堕落の国を離れるわけにはいかない理由がある)救世主or末裔だ。PC1ともっと旅を続けたい。
進行
プロローグ1
あなたたちは走っている。月の光すらも、雲に遮られる堕落の国では夜の闇の下を駆けるには、手元の頼りない灯りか、心の疵由来の超感覚が頼りとなるだろう。あなたたちの片方、ないしは両方は、裁判で手酷い傷を負っている。昏倒し、倒れ伏すことだけは、なんとか避けられた。しかし、その運命もすぐ背後に迫っている。
傷つき、休める場所を求めてあてもなくさまようPCたちの描写。傷ついていることが重要であり、PKに勝利しながらも負傷しているのか、あるいは敗走しているのかはシナリオ的には重要ではない。PCたちの提案をできるだけ受け入れる。
教会にたどり着くまでの過程は、夜闇の中灯りを見つける、崖から海に落ちて流される、などなんでもいい。途中で意識を一度失わせておくとスムーズに運ぶだろう。なぜ意識を失ったPCたちが追い打ちをかけられないのかは後述。
プロローグ2
どれぐらいの間、意識を失っていたのか。やがてあなたたちは目を覚ます。知らない一室のベッドに、あなたたちは寝かされている。どこかから、波の音が聞こえる……起きあがるとすぐわかるが、裁判で負った怪我は、ささやかながら手当されている。部屋は質素だが、堕落の国としては恵まれている方だ。
窓の外には……生命力に溢れ、緑の葉を茂らせる樹や、下生えに包まれた地面が視える。窓から少し身を乗り出して、空を見上げれば、やはり空は陰鬱な雲に覆われていて、ここはやはり堕落の国であることを、あなた達は直感する。首をかしげていると、部屋の戸をノックする音が転がる……
PCらが意識を取り戻すと、客室に手当されて寝かせられている。窓から外を見れば、海を臨む教会の一室に自分たちがいることがわかるだろう。また、堕落の国であるはずなのに自然が豊かな場所であることも。
「お目覚めでしょうか……?」
部屋に入ってきた彼女はカルセラと名乗り、あなたたちが傷つき倒れていたところを助けたのだと説明する。それが終われば、PCたちを食堂へと案内する。テーブルにつけば、温かい料理が出てくるだろう。堕落の国にしては豪勢な料理。鸚鵡の卵のオムレツ。海ぶどうのスパゲッティ。椰子の実ジュース。栄養価も高く、おいしい。
落ち着いたところで、カルセラは見てほしいものがあるといい、外へと案内する。教会から見下ろす海岸だ。
「ご存知ですか? この海岸に伝わるおとぎ話を。霞の向こうから船が現れて、救世主を堕落の国から元の世界へと送り届けてくれる、んですって……」
砂浜まで案内すると、水平線を見つめながら、そんな話をする。
さらに、奇妙なものが現れる。
一頭の巨大なドラゴンが降り立つと、地面にブレスを吐きかける。するとそこから、果実が生えてくるではないか。
カルセラは語る。ここは亡者『ワンダーバッフェ』に支配されている領域だ。海岸から出ようとすると、ワンダーバッフェが襲いかかってくるのだという。ここにいれば亡者に襲われることもなく、竜のブレスによって生み出された食事も存在するので、滞在することに困ることはない。ちなみにPCたちへの追手がなくなったのは、海岸に侵入した救世主たちをワンダーバッフェが始末したためである。
「亡者に護られることに思うところはあるかもしれませんが……何をするにしても、休んで傷を癒やすべきだと私は思いますよ」
こうしてお茶会が始まる。堕落の国には30日ルールが存在するため、いつまでもここにい続けるわけには行かない。導入で負ったダメージが完治する頃──つまりお茶会が終わる時、PCたちは選択を迫られる。
お茶会
概要
2ラウンド。PKの行動は2回。
亡者のデータとクエストを公開する。MOD「幽暗」により、アイテムの受け渡しが不自由なことに留意すること。
お茶会は、海岸に滞在する間の、カルセラや互いのPCの交流という形で行われる。PCの行動順は相談、ないしはダイスで決めさせること。
第2ラウンドに入ると、血相を変えたカルセラが、海の霞の向こうに、ぼんやりと影が見えることを救世主に教える。おそらくは船だろうと、直感的にわかる。伝説は真実だったのだ。
亡者の手番行動
ワンダーバッフェはラウンドの最後に1回ずつ行動し、均等に抉りを試みる。抉りの演出は、主にカルセラが行う。PCの弱さに共感する形で、それを浮き彫りにするのだ。
亡者の疵
亡者の疵を抉る場合、ワンダーバッフェの情報収集をするという演出が望ましい。カルセラに訊くという形でもよい。
詳細は心の疵(弱点)を参照。
クエスト
お茶会開始と同時に、以下のクエストを公開する。
クエスト:果実の収穫 |
条件 |
ワンダーバッフェの疵を抉る判定でのみ挑戦可能。 |
概要 |
ワンダーバッフェのブレスからは果実が生まれる。その出来たての果実にはことさらに滋養が詰まっている。手に入れることができれば裁判で有利となるだろう。 |
目標値 |
9 |
消滅条件 |
2回挑戦するか、お茶会終了と同時に消滅。 |
成功 |
挑戦したPCは果実を得る。「とうみつ」相当の効果を持つ。 |
失敗 |
同様に「とうみつ」を得られるが、ブレスを浴びてしまう。挑戦したPCは開廷時にランダムな不調(2ラウンド継続)を受ける。 |
放置 |
何も起こらない。 |
シーン表
シーン表は、以下のものを使う。
1D12 |
海岸シーン表 |
1 |
砂浜。なんと海は淀んでいない。魚、エビ、海藻、なんでも採り放題だ。沖にはサメが泳いでいる。 |
2 |
港。もはや船が来ることはないはずの廃墟である。 |
3 |
海を見下ろせる崖。カルセラはこの場所を“神様の足台”と呼んでいる。誰かが立てた、旗のようなものがある。 |
4 |
森。鮮やかな色の鳥や果物が見つかる夢のような場所。これもワンダーバッフェの力なのか? |
5 |
丘に建つ教会。カルセラが家事をしている。天井に穴が空いている箇所があるが、むかし雷が落ちたのだという。 |
6 |
教会の庭。背の低い草が風にそよいでいる。物干し台で乾されたシーツがたなびいている。 |
7 |
あなたたちに割り当てられた部屋。聞き耳を立てているものはいなさそうだ。 |
8 |
墓地。簡素な墓標が並んでいる。カルセラの作ったものだろうか。 |
9 |
岩場。転倒事故に注意。カニや貝が見つかる。 |
10 |
一瞬だけ自分は荒野に立っていることに気づく。瞬きすれば元通り。白日夢か、あるいは…… |
11 |
教会の地下牢。今は誰も囚われていないようだ。 |
12 |
境界石。この外側は、荒れ果てた堕落の国の光景が広がっている。ここから外へと踏み出せば、ワンダーバッフェが襲ってくるだろう。 |
選択のとき
黄昏時、廃墟の港に船が近づいてくる。お茶会最後の手番終了時、救世主たちが一同に介し、選択を行うシーン。
このシーンのあとに「悖戻」「曚昧」の処理を行う。ここでシナリオがいくつか分岐するので、PL(PC)に意思を確認すること。かなりファジーな判断を迫られることになるかもしれないので、困ったらPLと相談しつつ、いい感じに演出しよう。
A.PC1が船出を望み、PC2がそれを許す場合
円満であろうルートその1。訪れる船を待つために海岸へと向かうPCに、脱出を許さないワンダーバッフェが襲来する。PC1とPC2は、ワンダーバッフェとの裁判に臨み、それを退ける必要がある。亡者戦(PVE)を行うこと。
B.双方が残留を望む場合
円満であろうルートその2。Aルート同様、海岸を脱出しようとするPCたちに、ワンダーバッフェが襲来する。亡者戦(PVE)を行うこと。
C.PC1が船出を望み、PC2がそれを許さない場合
円満ではないルート。
海岸を出発する前に、互いの願いが一致していないことを悟ったPC1とPC2が、対決するシーンをPCたちに演出してもらう。その後、PC1とPC2の裁判となる。決闘(PVP)を行うこと。PKは登場しない。
PC2が末裔だった場合、PC1によって力の供給を止めることができると思うかもしれない。そうしようとした場合は、カルセラがそれを阻むか、ないしは代わりにカルセラが力を分け与えることになるだろう。
D.それ以外
臨機応変にやってほしい。だいたいは亡者戦の展開に持ち込むことで決着すると思われる。思いつかない場合は、PLに上記ABCのいずれかにしてほしいとお願いすること。
裁判
亡者戦(PVE)
亡者戦になることが確定した場合、PCたちに小道具の受け渡しを許可してよい。
いずれの場合でも、カルセラが配下として参戦する。PCたちが『曚昧』で変える技能を迷っている場合は、『応急』『精確』『威風』などをそれとなくオススメしてもいいだろう。不調・妨害対策がないと厳しい戦いになる。
『仕込』では日刻みの時計(先手を取れると有利なので、才覚振りがいるなら取っておきたい)、水パイプ(封印を入れられる可能性があるなら)、とうみつ(配下のHPを回復し長生きさせられる安牌)、免罪符(安牌)などを入手する。
『救済』『刹那』『回復』に弱いので、『きっぷ拝見』『名無しの森』で確実に封じたい。愛PCに封印を入れ続ける展開が理想なので、『たまご爆弾』は愛PCから優先して使う。『ニヤニヤ』で衰弱がついているなら1/3のガチャになり勝算がある。『病理』ですべての不調の持続ラウンド数が伸びることを忘れずに。
『双子』が来ないことにはどうにもならないので、山札の残りをカウントしつつ、双子が一枚も残っていない場合は基本的に全捨てでよい。攻撃順番は愛PCが先(防壁された上で昏倒されるとフィズるので)
決闘(PVP)
PCたちの望むロケーションで対決することになる。亡者たちは手を出すことはない。「亡者を倒すが、それはそれとして隣のPCと決着もつけたい」という場合は、亡者を倒したあと、ワンダーバッフェの力の残滓が二人を癒やし、消耗が裁判開始前まで巻き戻る……という形にすると平等感を演出することができるだろう。しなくてもよい。
エピローグ
亡者戦に勝利した
ワンダーバッフェを退け、二人は亡者の領域を脱出する。
ワンダーバッフェに止めを刺す場合は、教会の周囲のすべてが朽ち果て、元の荒野へと戻っていく。カルセラは、ワンダーバッフェと生死をともにする。
亡者戦に敗北した
カルセラは救世主の責務を果たす。教会に墓標が2つ増えることとなるだろう。
「あら? また、お客様ですか? どうぞ、傷ついた身体を、お休めになって…… つい先日まで、別のお客様がいたんですよ。けれど、いつの間にかいなくなっていて。ひょっとしたら……船に乗って、この海岸から、堕落の国の外へと旅立ってしまったのかもしれませんね。そんな、おとぎ話があるんですよ。私も、いつかは帰れたらいいなと、思っています。私を待つ、愛する人のもとへ」
決闘にPC1が勝利した
ワンダーバッフェは、PCたちを襲うことはない。勝利したPC1をその背に乗せて、水平線の船影へと導く。PC2(あるいは、PC2の死体)を残して。PC1はロストとなる。
決闘にPC2が勝利した
PC1が生存している場合でも、元の世界への帰還を断念することになる。教会に居続ける選択肢もあるだろうし、ワンダーバッフェを振り切って荒野へと戻るのかもしれない。描写はプレイヤーに委ねること。選択によってはワンダーバッフェと戦う必要が出てくるかも知れないが、その裁判については割愛するべきだろう(PCたちが勝ったことにしてかまわない)。
PK ワンダーバッフェ(Wunderwaffe)
心の疵(弱点)
亡者の弱点が抉られる場合、以下の記述を参考にすること。
疵『その正体』
「私は思うんですよ。亡者とは、堕落の国に適応した新しい命の形なのではないかと」
亡者ワンダーバッフェは、死産に終わったカルセラの子が亡者になった存在である。カルセラを襲うことがないのはそのためだ。海岸にいる人間を襲わないのではなく、カルセラの傍にいる人間を襲うことがないというのが真実である。
疵『ドレッドノート』
「サラマンダーという救世主がいました。サラマンダーは、ワンダーバッフェに大した傷をつけることはできませんでしたが、あの剣だけが、突き立ったまま残っています」
剣を引き抜くことができれば有効な武器として使えるかもしれないし、刺さっていた傷口を弱点として攻められるかもしれない。
サラマンダーは、ワンダーバッフェの父親でもあるが、そこまでは語らない。ドレッドノートというのはこの剣の名前だ。
アレンジ案
亡者の能力値を才覚4愛2にし、『茶々入れ』を『ドリンクミー』に変更
HPが上がり、更に不調偏重型となる。「赤い毛糸」なども選択肢として強い。
亡者の能力値を才覚4愛2にし、『茶々入れ』を『トランプ兵』に変更
亡者の能力値を才覚4愛2にし、『茶々入れ』を『トランプ兵』に変更
HPが上がり、安定感が増す。刹那に弱すぎるという弱点が緩和される。
『病理』を『万能』に変更
達成値を確保して妨害成功率を上げたり、『茶々入れ』を確実に成功させたい人向け。
HELL化
お前らは今更どこにも行けないんだよって教えたいときは、
このデータを使ってください(HELLにする旨は事前に通達したほうがよいとされています)
補遺 - NPCについて
ロールに困ったときに参照されたし。セッションの展開次第で、改変してしまってもかまわない。あくまで参考程度に。
救世主カルセラ
20歳前後の女性。かつては聖職者であったらしい。実在の宗教を信仰していることにするとシナリオの主題からズレてしまう可能性があるので、フワッとさせておくことを推奨する。異世界のオリジナル宗教がよいだろう。故郷に生き別れの恋人がいる。
救世主として活動しながら、元の世界へと戻る方法を探していたが、救世主サラマンダーと望まぬ性交の末妊娠し、死産した子が亡者ワンダーバッフェになってしまったことから、帰還を諦め、海岸の教会に隠棲するようになる。
救世主を積極的に殺そうとはしないが、ワンダーバッフェのおこぼれを貰う形で救世主を殺し、生き延びている。殺しの責任を半分亡者に押し付けているのだ。
自身の罪そのものであるワンダーバッフェに護られていることに忸怩たる気持ちでいるが、死ぬことも戦うことも選べずにいる。お茶会終了時に覚悟を決め、ひとつのけじめとしてPCたちと生死を賭して戦おうとする。
名前の由来は牢(Carcere)のもじり。
亡者ワンダーバッフェ
巨大なドラゴンの姿をした亡者。決してカルセラを襲おうとしない。カルセラが孕んだ、生まれることのなかったこどもが亡者と成り果てたもの。父親であるサラマンダーを殺害した。
吐き出したブレスからは生命が誕生する。裁判ではそれを活用しつつドラゴンのフィジカルで戦うことになる。カルセラが倒れた場合は怒り狂い、すべてを枯れさせる死のブレスを吐く。
救世主サラマンダー
屈強な救世主。シナリオ開始時時点では故人。カルセラと冒険をしていたことがある。カルセラに恋をしていた。『困難な迷宮』で手に入れた剣“Dreadnought(恐れ知らず)”をワンダーバッフェに突き立て、死亡する。
“船”
普通に二人で乗ることもできるが、ハンドアウト上、二人で乗るまでにはひと悶着が必要になる可能性が高い。ちなみにその場合は、両者ともロストとなる。
本当に元の世界に戻れるかは、このシナリオでは決まっていない。GMはその場の流れで決めたり、曖昧にして終えたりするのがよいだろう。
正体は不明。ひょっとしたら亡者かもしれない。
あとがき
南国っぽい舞台で、なんとなくなあなあにしてきた二人の問題に無理やり決着をつけさせるシナリオです。元の世界に戻れるって言うけど脅威度3まで生き延びるほど堕落の国に馴染んだ救世主は本当に帰って幸せになれるの?とか、故郷に残した大事なものはもう無くなってるんじゃないの?とかそういうことを問いかけながら抉ってください。形あるものも形ないものも美しいものは失われ、移り変わっていくのです。
題材上お茶会がかなり気まずく重苦しいものになりがちなので、やるさいはPLもGMも覚悟が必要なものとなっています。愛情を確かめ合ったり、あるいはとっくに存在しない想いにすがったり、がんばってください。でもそれがデスゲーム……なのか?