招待状に導かれ、堕落の国へと落ちてきてしまった救世主PC1。
近隣の村に住むPC2に助けられ、堕落の国についてのいろはを教えてもらうことになる。
しかしその村には、末裔・初心者救世主狩りに明け暮れる悪名高いPK救世主『弱者狩り』ヘルブラムが迫っていた。
PC1は救世主の自覚もままならないままPC2とともに、PK救世主に立ち向かわなければならない。さもなくば死ぬだけだ。
ハンドアウト
以下のどちらかを選ぶこと。どちらも、コイン10枚、脅威度1で作成する。
PC1(救世主)
あなたは堕落の国にやってきたばかりの救世主だ。元の世界では殺し合いとは無関係な一般人だった。“人間の子供”である必要は特になく、殺し合う覚悟がないことが重要。
PC2(末裔)
あなたはPC1を見つけ、助けた末裔だ。
使用MOD
難易度変更MOD「救世主強化」
救世主PKを強化します。強い敵であることに意味があるシナリオです。
お茶会MOD「クエスト」
放置することで状況が悪化するクエストが複数あります。
進行
導入
招待状を読み上げたPC1は、気がついたときには着の身着のままでPC2の住まう村落の近くの荒野に転移している。周囲を見渡しても荒涼とした風景ばかり。持っているのは、六ペンスコインが同封された招待状ぐらいだ。
そうして、途方にくれているPC1をPC2は偶然発見する。発見できた理由は、見張り櫓に立っていたからとか、柵の修繕をしていたとか、適当に決めてよい。
救世主であるPC1は村の人間におおむね歓迎され、発見者であるPC2がなし崩し的に教育係として任命され、しばらくの間ふたりで過ごすことになる。
お茶会:1ラウンド目
PKの登場しない平和な時間。PKの情報は開示されず、心の疵を抉ることはできない。お互いに舐めあってもらうのがよいだろう。PC1がPC2に堕落の国のルールを教えてもらったり、村落の案内をしてもらったりする描写を想定している。
演出上登場しないだけでPKは横槍を行う。横槍が決まった場合、天気が崩れるなどの不吉な情景描写を挟もう。
1ラウンド目でのシーン表は次のものを使う。
1D12 |
平和な村シーン表 |
1 |
村の門。外に広がっているのは荒野ばかり。櫓に見張りが数名立っている。しばらく亡者は現れていないというが…… |
2 |
広場。休憩をしている労働者や、遊ぶ子供の姿が見える。 |
3 |
鍛冶屋。主に日用品が作られている。救世主の武器にふさわしいものはなさそう。 |
4 |
酒場。寄り合い所としても使われている。粗末な酒と食事しかないように見えるが、あなたが救世主なら貴重な果実のジュースが出るかも。 |
5 |
倉庫。かつて滞在していた別の救世主の助力もあって、充分に食糧が蓄えられている。ほとんどは亡者の肉だが。 |
6 |
よろず屋。涙の都へと向かう旅人や商人向けの雑貨を取り扱っている。 |
7 |
村外れ。ひとけのない場所。 |
8 |
岩山。村落が背にしている巨人の右足である。涙の都に通じているが、準備なしに越えるのはやめたほうがいい。 |
9 |
村の中心を流れる川。かつては清流だったのだろうが、今は汚く濁っている。 |
10 |
共同墓地。亡者に殺されたり、病で死んだものが眠る。 |
11 |
教会。今では訪れるものも少ない。 |
12 |
PC2の住居。 |
お茶会:マスターシーン
1ラウンド目終了後、マスターシーンを挿入。作中時間では、導入~お茶会ラウンド1の翌日~一週間程度後の時期を想定している。
ある日怪我をした末裔が村の門を叩くことで、PC1とPC2のつかの間の穏やかな時間は終わる。近隣の集落が、略奪や殺戮をいとわない救世主“ヘルブラム”に襲われ、そこから逃げ出してきたというのだ。見れば黒煙が立ち上っている。そこは彼の住んでいた集落があったはずの方角だ。
村落の末裔たちが慌てふためいていると、逃げてきた末裔を追うように馬車に乗った救世主と、それに隷属する末裔たちが現れる。彼らがヘルブラムとその配下だ。
ヘルブラムはこの村落のすべてを奪うことを宣言し、恐怖で従えている末裔の配下とともに村を破壊し始める。
絶望に支配される末裔たちだが……
「そうだ。俺たちには救世主様がいるじゃないか!」
「救世主様! 私達を助けてください!」
視線がPC1に集まる。こうして、PC1はPC2とともにヘルブラムと戦うことになる。
このシーンで、PC2もコインの力をPC1に分け与えられることになる。他の誰でもないPC2である理由や流れは、何でも構わないが、予めプレイヤーに考えてもらっておくとスムーズだろう。
ここで、PK救世主のデータを公開する。このラウンドから、PKが割り込んで行動し始める。
また、以下の3つのクエストを公開する。どうあがいてもすべてのクエストをクリアできないが、仕様である。
クエスト:トカゲの説得 |
概要 |
村落の一員であるトカゲの末裔が絶望し、ヘルブラムの軍門に降る事で生き延びようとしている。 |
目標値 |
7 |
消滅条件 |
お茶会終了と同時に消滅。 |
成功 |
説得によってトカゲは改心する。あるいは、寝返ることができない状態になる。 |
失敗 |
逆鱗に触れてしまう。トカゲはPCたちを罵り、去っていく。 |
放置 |
「脅威度1・有象無象・HP1・技能習得:追風」の配下が追加される。 |
クエスト:略奪の阻止 |
概要 |
物々しい武装をしたヘルブラムの配下に倉庫が襲撃され、食糧が奪われようとしている。 |
目標値 |
7 |
消滅条件 |
お茶会終了と同時に消滅。 |
成功 |
略奪を食い止める。 |
失敗 |
ただ食糧が奪われるのを見過ごすしかない。裁判に勝利できても、この村の未来はないだろう。 |
放置 |
ヘルブラムの小道具に、「とうみつ」が追加される。 |
クエスト:鎮火 |
概要 |
建物の一つが火に巻かれている。放っておけば、火は村全体を覆うだろう。汚水を汲んで消火活動するか、建物を破壊して延焼を食い止めるか。 |
目標値 |
7 |
消滅条件 |
お茶会終了と同時に消滅。 |
成功 |
どうにか火を消すことに成功する。 |
失敗 |
火を食い止められない。裁判が始まるころに、村全体が炎に包まれてしまう。 |
放置 |
裁判中、ファンブル値が1上昇する。 |
お茶会:2ラウンド目
お茶会は、村落を破壊し、略奪を繰り返すヘルブラムやその配下と戦いながら、スキを縫って疵を抉り、舐めるという演出になるだろう。
2ラウンドでは、次のシーン表を使うこと。
1D12 |
村焼かれシーン表 |
1 |
村の門。すでに打ち壊されている。ヘルブラムの配下が見張っており、ここから逃げられるような甘い話はない。 |
2 |
広場。村民がバリケードを作って抵抗している。はかない時間稼ぎだ。 |
3 |
民家。誰もいないように見えるだけで、村民が息を潜めて隠れているかもしれない。 |
4 |
酒場。戦う前に気付けしておいてもいいかも。 |
5 |
倉庫。食糧が蓄えられていたが、今まさにそれも奪われようとしている。 |
6 |
燃え盛る家。末裔の子供が、絶望の表情でその前に座り込んでいる。家族が中に残っていたのかもしれない。 |
7 |
村長の家。ここでは最も大きい家だ。避難してきた末裔が身を寄せ合っているが、安全などは保証されていない。 |
8 |
岩山。村落が背にしている巨人の右足である。ここから逃げていく村民もいるが、自殺行為だろう。 |
9 |
村の中心を流れる川。濁った水は、手を拱いているうちに、さらに血で汚れることになる。 |
10 |
共同墓地。ヘルブラムたちに村が滅ぼされたなら、ここで眠ることすらもできない。 |
11 |
教会。ここも堅牢な場所なので立てこもるには適している。神の助けはなさそうだ。 |
12 |
PC2の住居。今のところは安全だ。……本当に? |
裁判
ヘルブラムとの戦い。達成できず消滅したクエストについて、忘れずに効果を適用しておく。
戦術
PCはこちらに『肉壁』があるため『滋養』で膨らんだ配下を殴る必要がある。そこを『媒鳥』で大ダメージを狙う。配下の『必衰』で〈衰弱〉がついていれば11ダメージ以上になる。『妨害』「とうみつ」は配下を長生きさせるために使おう。『封殺』が来たら、愛PCがいれば『回復』『救済』を封じるためにそちらを狙い、いなければ『刹那』を封じるために猟奇PCを狙うのがいいだろう。
救世主強化MODが適用されているため、心の疵の逆転を行えることを忘れないこと。
エピローグ
勝利した場合
ヘルブラムの配下はすべて逃げるか、降伏し、村落には平和が取り戻される。ヘルブラムを殺さずに生かすならば、少なくともこのシナリオの終了時まではいいなりになるだろう。PCたちが放免を考え始めた場合、救世主の責務について思い出させてもよい。また、仲間を殺されている村人たちも反発するだろう。
ヘルブラムが判決表の結果死亡している、または処刑することを選ぶ場合、ヘルブラムは呪詛の言葉を吐きながら事切れる。
「テメエもいずれこうなる番がやってくる。オレはそれを、地獄の底で楽しみに待ってるぜェ! ギャハハハハハ……」
PC1は英雄として村民に讃えられる。しかし、クエスト達成状況によっては、村は近く滅ぶかもしれない。PC1を責める村人も出てくるだろう。
あとは、プレイヤーの自由にさせること。村から旅立つ展開になりそうな場合は、岩山の向こうにある『涙の都』がさしあたりの目的地として適しているであろうことを、伝えること。
敗北した場合
PCたちは歯向かった愚か者として串刺しにされ、その死体は目立つ場所に晒される。ロストである。これもまた、堕落の国にはよくあることだ。
PK『弱者狩り』ヘルブラム
キャラクターシート:『弱者狩り』ヘルブラム
「あるじゃねえかよ、メシと女がよ!」
物々しい武装をした、野盗然とした男。奴隷の末裔を引き連れては近隣の村を荒らし、末裔と新参救世主を殺害し暴虐の限りを尽くす。
暴力的で残忍な振る舞いとは裏腹に知恵が回る。不思議な力は持たないが、非道へのためらいのなさこそが心の疵の異能と言える。
心の疵
ヘルブラムの疵が抉られる場合、以下の記述を参考にして描写すること。
心の疵『末裔憎悪』
「そいつら末裔は、今はてめえを救世主サマ救世主サマと崇め奉っているが、自分たちに都合が良くない救世主サマだとわかりゃすぐ掌を返すぜ!」
ヘルブラムはかつては“まとも”な救世主であったと、記憶している配下もいる。自分を亡者や他の救世主と戦わせておいて、後方で何もしない末裔のことを、ヘルブラムは憎んでいる。
PC1がPC2を案じる姿、PC2がPC1に献身する姿などを見せれば、ヘルブラムは苛立つ。逆に、卑小な末裔としての姿をPC2が見せても、憎悪が煽られ、抉れる。
心の疵『救世主憎悪』
「てめえもいつかはオレのようになる。いつまで“正義の救世主”でいられるかな!?」
ヘルブラムは他の救世主を誰も信じていない。“最後の一人”になるまで殺し合う相手と認識している。かつてはそうではなかった。ヘルブラムは、手酷い裏切りを受けたのだ。
PC1が無知ながらに救世主の役目を果たそうとする姿を見せれば、ヘルブラムの心は掻き乱される。逆に、果たそうとしなくても抉れる。
補遺
描写に困った際に参照されたし。
名もない村落
PC2たちの暮らしている、『巨人の右足』周縁に位置する村落。岩山を背にしており、亡者などの襲来に対しての防衛に向いた立地となっている。逆に言えば、攻め込まれれば逃げ場がないということでもある。心の疵の奇跡で『パンくずを無限に生み出せる』救世主がかつて逗留し、亡者を退けていたが、一ヶ月ほど前に亡者と相打ちになって死亡している。救世主のもたらした食料の蓄え、『涙の都』へと向かう救世主や末裔への商売などで生計を立てているが、緩やかに貧しくなりつつある。他の、救世主の加護が存在しない無数の集落と同じように。
このあたりの設定は、PC2の設定に合わせて、いい感じにアレンジするとよい。
『人間の子供』とは?
ヘルブラムの年齢は18歳だ。このことは特に明かさなくてよい。
アレンジ案
チュートリアル
世界設定について自然と学べるので、DoA初心者へのチュートリアルとしても用いることができる(PC1はサプリメントなしでもキャラメイク可能)。その場合はクエスト要素をオミットするか、成功報酬として小道具を渡すなどマイルドに改変してもよいだろう。
PC2名の能力値はさまざまな組み合わせが考えられるが、おそらく猟奇PC+愛PCの組み合わせが安定してヘルブラムと戦える。このことは特に教えなくてもいい。
ヘルブラムについて
GMはロールプレイしにくいと思った場合、心の疵に反しない程度に口調や外見、名前などを好きにアレンジしてかまわない。
あとがき
元一般人だった人間が人間性を失い“救世主”になるまでの話、を意図して書いています。
救世主と末裔の違い、弱さという罪、強さという悲劇についてがテーマのシナリオです。後味のいい終わり方になる可能性はかなり低いので、遊ぶ相手は選んだほうがいいかもしれません。
でもそれがデスゲームですよね?