They lived happily ever after.
シナリオ制作:やさか
内容にはシナリオのネタバレが含まれておりますのでご注意ください。
概要
このシナリオは六ペンス20枚(脅威度2)のPC2人用、協力傾向のシナリオです。
既存PCでも新規PCでも可です。
PCたちは、既にある程度堕落の国を共に生き抜いてきた、信頼できるパートナーであるという前提で進みます。
背景
PCたちは末裔からの依頼を受けて、プレスコットと呼ばれる村の異変を調べることになりました。
しかし調査の最中、村に潜む救世主シュゼットの罠にかかり『ハッピー・マリッジ』と呼ばれる呪いを受けます。

『ハッピー・マリッジ』は片方が目覚めているとき、もう片方は必ず眠りにつく呪い。
次に2人のどちらかが眠ったときに、呪いは本格的に発動し、『二人でひとつの人生』を強いられることになります。
そうなる前に救世主シュゼットを討ち、呪いを解くことができるのでしょうか。

かくして、『ハッピー・マリッジ』に至る最後の時間――『結婚前夜』が幕を開けます。
進行
プロローグ
1. 沼地の村の噂
プロローグは街の広場など、人通りのある場所で開始してください。シーンは2人のPCが信頼関係にあることを確認することから始めます。ちょうど裁判が閉廷した、というところから開始することを推奨しています。いつも通り息のあった戦いをした、とするのが良いでしょう。

その裁判を見ていた末裔の一人が、PCたちに話しかけます。

「やあ、お二人さん!あんたがた、ずいぶん腕が立つみたいだねえ!」

この末裔はPCに、近隣の "プレスコット" という村の異変を調査してくれるよう依頼します。

PCたちに与えられる情報は次の通りです(情報1)。報酬を提示する、水の入手を質に取るなどしてPCたちに引き受けさせてください。
情報1
この街から北にしばらく行ったところに、プレスコット村という沼に囲まれた村がある。
最近、そこに一人で行った者は誰も戻ってこない。
三人で行った者も、一人は戻ってこない。
二人でなら戻ってくることもあるが、今度はその二人が揃って出歩いているところは見かけなくなる。
プレスコット村はこの近辺の水源なのに、おかげで買付けが滞って周辺の町村で水不足が起きている。
2. プレスコット村の救世主
PCたちは夕暮れ時にプレスコット村に到着します。プレスコット村は沼に囲まれた比較的大きな村ですが、村の規模からすると、出歩いている村人は少ないように見えます。

PCたちが適当な村人に話しかければ、村人はなによりもまず「お二人でいらっしゃったのですか?」と尋ね返します。この村人を、PK『シュゼット・バルデ』としてください。

シュゼットは続けて「あなたがたはずいぶん深い絆をお持ちのようですね」などと言いながら、PCたちに友好的に接します。村についてPCから質問があれば、差し支えない程度に答えて構いません。一部回答は次の情報(情報2)を参考にしてください。

シュゼットはこの村に宿がないことをPCたちに伝え、自分の家に招きます。そこでシュゼットはPCたちに一杯の水を振る舞うなど親切な様子を見せますが、しばらくするとPCたちは強烈な眠気を覚えて意識を失います。薬を盛ったとしても、魔法の力としても良いです。

「これであなたがたの絆は永遠になりますよ……」

そんな声を最後に眠りに落ちたPCたちは、夢を見ます。内容を詳細に描写する必要はありませんが、シュゼットが左の薬指にしていた指輪について触れてください。単にそれを覚えているだけの夢でも構いません。夢の中で指輪は黒いもやを纏っており、PCたち救世主には、それがシュゼットの力の源であることがなんとなくわかります。
情報2
この村には宿がありません。沼に囲まれた村の立地上、建物を増やすことが困難だからです。水の買い付けに来る商人は、馴染みの村人の家に泊まることがほとんどです。
村人が少なく見えるのは、常に約半数が眠っているからです。PCから質問された場合は、この段階では「水を売りに出ている者が多いからだ」と答えてください。
3. 真夜中の目覚め
PCたちが目を覚ますと、時はすでに真夜中です。シュゼットの姿はどこにもありません。しかし、家の外には、真夜中にも関わらず出歩いている村人がそれなりの数いることに気づくでしょう。明かりのついた家もかなりの数あります。

PCたちが外に出たら、適当な村人にPCたちを発見させ、PCたちの現状(情報3)を伝えてください。
情報3
この村には『シュゼット・バルデ』という、魔女を名乗る女の救世主がいます。
シュゼットはこの村で、彼女が『ハッピー・マリッジ』と呼ぶ呪いをかけて回っています。
『ハッピー・マリッジ』は、『二人でひとつの人生』を対象に強制します。具体的には、片方が目覚めているとき、もう片方は必ず眠りにつくという状態になります。この影響下で、二人は同時に別々の人生を生きることはできません。
呪いをかけられたときになんの絆も持っていない者、奇数になってあぶれてしまった者は眠りについたまま目覚めなくなります。そのまま死んでいく者がほとんどです。
呪いをかけられた後、次にどちらかが眠りにつくと『ハッピー・マリッジ』が発動します。つまり、PCたちは次にどちらかが意識を失うと呪いの影響下に入ります。この最後の時間を、シュゼットは『結婚前夜』と呼んでいます。
この村で恋人、友人、兄弟姉妹など、なんらかの絆で結ばれた二人は既に『ハッピー・マリッジ』の影響下にあります。
お茶会
救世主同士の典型的なお茶会です。
プレスコット村の中でシュゼットを探しつつ、敵味方の心の疵に触れて裁判に備えましょう。
お茶会に入った段階でシュゼットのPKシートを公開してください。

片方が眠ると『ハッピー・マリッジ』が発動するため、お茶会はPCたちが目覚めてから丸一日ほどまでで期限を切りましょう。
シュゼットは村人から恐れられていますが、お構いなしに村を闊歩しています。
PCたちが探せば見つけるのは難しくありません。しかし、魔女を名乗る通り、魔法のように現れては消えます。
シーン表
以下のシナリオ専用プレスコット村シーン表を使います。
1D12 描写
1 中央通り。昼夜を問わず村人たちが行き来している。彼らの片割れは今、どこかで眠っている。
2 水汲み小屋。沼の水を濾過・蒸留する小屋。ゆるやかに水車が回る傍らには、水樽が積まれている。
3 酒場。小さなカウンターに村人が肩を寄せあっている。この村では酒よりも水が安い。それでも人生に酒は必要だ。
4 桟橋。沼に漕ぎ出すための小舟が繋がれている。沼には誰の姿もない。水面は底を見通せないほど濁っている。
5 墓場。村の外れにある共同墓地。最近できたものと思しき墓がいくつも立ち並び、寂しい空気が漂う。
6 空き家。ごく最近まで誰かが住んでいた気配がする。戸棚の中には何もないが、テーブルやベッドは残されているようだ。
7 裏路地。ひと気のない細い道。表通りからかすかに流れてくる人の声と、水のにおい。
8 商店。堕落の国では珍しく、水の在庫が豊富。他の品揃えもほどほどだ。救世主が求めるような物資でも、運が良ければ手に入るだろう。
9 沼のほとり。緑色に濁った水が小さく波立っている。かすかに霧が出て、足元を危うくさせている。
10 広場。村の中央。隅のほうでは、いつでも子供が何人か遊んでいる。親の姿は見えない。
11 教会。ごく小さな教会。砂塵に汚れたステンドグラスの内側で、小さな明かりは絶えることがない。
12 魔女の家。シュゼット・バルデの棲家。中は薄暗く、どこか甘いにおいがする。シュゼットはいるだろうか?
シュゼット・バルデの心の疵『絆』
自分にはもうないものが妬ましい。傷つけてしまいたい。引き裂いてしまいたい。
シュゼットは人と人との絆にコンプレックスを持っています。

シュゼットにはかつて婚約者がいましたが、彼は結婚前夜に姿を消しました。駆け落ちの噂が立ち、シュゼットは彼に捨てられたのだということが既成事実化しました。以後、シュゼットは他人のことを一切信じようとしません。

シュゼットの『ハッピー・マリッジ』は人の絆を目に見える形で皮肉った魔法です。また一方で、人の絆を妬んだ魔法でもあります。

『ハッピー・マリッジ』の影響下で、二人の結びつきは永遠に分かたれることがありませんが、同じ場所にいたとしても二度と出会うことはできません。
シュゼット・バルデの心の疵『薬指の指輪』
これがあるから忘れられない。けれども捨ててはしまえない。
シュゼットが婚約者と交わすはずだった結婚指輪です。

シュゼットは自分を捨てた婚約者を憎んでいますが、愛していたことを忘れられずにいます。指輪は過去の象徴であり、憎しみを忘れないためのよすがであり、愛を忘れられない楔です。
裁判
進め方
シュゼットはPCたちの意識を奪って『ハッピー・マリッジ』を発動させるため、裁判に対して積極的です。PCたちが挑めば乗ってきますし、そうでなくても夜が更ける頃にはPCたちのもとへやってきます。

シュゼットの凶器は魔法の媒介として指輪です。心の疵になっている結婚指輪を想定しています。
PKの行動指針
『集気』と『霊気』で与えるダメージを上げながら戦う救世主です。HPに余裕があるうちに『集気』を使い、一撃で大きくPCのHPを削ることを考えます。

『狂愛』には『集気』や『霊気』のダメージ増加を組み合わせ、『回復』の1点、あるいは『吸精』の2点を使って失敗時にもPCの回復量を最低限に抑えながらダメージを与えていきましょう。

配下の『仕込』で獲得するのは『水パイプ』がおすすめ。PC側に《封印》の手段がないか少なければ、『免罪符』を含めても良いでしょう。
演出例
左手の指輪を胸の前にかざす。黒いもやの重なりは、禍々しいウエディングドレスのよう。
柔らかく差し伸べる手が、頭上に死の黒いヴェールをふわりと投げ掛ける。
愛しい。だからこそ憎い。シュゼットの感情が、攻撃の軌跡を逆流する。行き場のないものが、疵を出口に溢れ出す!
エピローグ
勝利した場合
シュゼットは〈昏倒〉すると、自分の『ハッピー・マリッジ』の影響下に入り、目覚めなくなります。

『ハッピー・マリッジ』を即座に解除するためには、基本的にシュゼットを〈死亡〉させる必要がありますが、PCたちが消極的な場合は凶器である指輪を破壊して〈死亡〉に代えてください。

シュゼットが〈死亡〉した後、『ハッピー・マリッジ』の呪いは解け、翌朝には多くの村人が片割れとともに起き出してくるでしょう。
全滅した場合
PCが両者〈昏倒〉で裁判が終了した場合、〈発狂〉さえしていなければ『亡者化の確認』などをする必要はありません。そのまま両者が生存します。

ただし、PCたちは『ハッピー・マリッジ』の影響下に入り、二人のうち一人が起きている間にはもう一人は目覚めなくなります。シュゼットはプレスコット村のありさまに満足し、PCたちを置き去りにして村を去ります。

片方の〈死亡〉や亡者化によって一人だけが残ってしまった場合、残ったPCは以後目を覚ますことなく、やがて死亡するでしょう。
PK『シュゼット・バルデ』
キャラクターシート

二十代半ばほどに見える女です。魔女を名乗り、呪いを撒いています。中世ヨーロッパ、あるいはそれに類似した世界の出身です。魔女を名乗り始めたのは堕落の国に来てからのようです。軽口を叩くように喋り、よく笑いますが、常に悪意があります。軽妙な態度をしていますが、馬鹿にされたり、煽られたりすると、非常に冷たい怒りを露わにします。

シュゼットは『ハッピー・マリッジ』を発動している間、一切の睡眠を取りません。シュゼットには絆を結んだ相手がおらず、眠ると『ハッピー・マリッジ』の効果で目覚めることができなくなるためです。
台詞例
「愛って、そもそも呪いのようなものよ」

「わたしが望むのは、『離れることのない絆』。誓いだなんて、神様を前にしただけの口約束でしょう?わたしはそうじゃないものがいいの」

「あなたがたがまったく他人だったら、目覚めなくなって、おしまい。そうじゃなかったら、二人は確かな絆を持ってるってこと!」
データのカスタマイズ
PKデータを元に、自由にカスタマイズして構いません。
カスタマイズ例
『集気』を『精確』に変更する(各種技能の成功率を重視する場合)
『集気』を『鋭気』に変更する(手番を消費せずに与えるダメージを上げたい場合)
『報復』を『遊撃』に変更する(与えるダメージよりも、相手の行動の成功率低下を重視する場合)
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